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中学生の頃、リストカットをしていた。

好きな男の子に振られ、受験対策で行った小さな塾で怒鳴られ、家では無神経な祖父からのプレッシャーを受け続けて、私の朗らかな部分はどこかに行ってしまった。

いや、そもそも私に朗らかな部分など最初からなかったのかもしれない。昔から、母は私より妹の方を愛していた。そして私より姉を、私より兄を愛していた。私も愛されてないわけではなかったけれど、その愛は2番目だったり3番目だったり4番目だったりした。

 

泣きながら腕を切った夜や、首に薄く傷をつけていつでも死ねると安心してからでしか塾に行けなかったこと、全部が私だしあの頃の私と今の私は何一つ変わっていない。

 

やっとの思いで入った高校は、もちろん楽しかったし友達もできたし居場所も見つけて、妹ぬきの私を観てくれていた人も居た。だけど結局誰にも愛されずに終わった。課題もそれなりにたくさんあったし閉鎖的な地方の進学校で身も心もボロボロになった。

 

大学生になって、初めて好きになった人は私を好きになってはくれなかった。仕方がなかった。虚しかった。その次に好きになった人と、やっと付き合えて、有頂天になっていたら突き落とされて、ある夜、彼は私のことなんか少しも好きではないと言った。私が自分のことを好きだから付き合ってるんだと言った。私の気持ちありきの関係性は辛くてたまらなかった。わたしは愛されたかったから、そんなの無理だと思った。だから好きだったけれど別れた。相手の愛が育つまで待つなんてできなかった。待ったところで、母親さえ結局は私を愛してくれないんだから。

 

私は出会い系をはじめた。ほとんどやけくそだった。元彼を想って泣く夜なんて1日たりとも過ごしたくなかった。7人の男はみんな私を大切に扱ってくれた。その優しさは全部私と寝るためのものだったけれど、それでもよかった。突き放されるよりマシだった。好きでもない男と手を繋いで夜道を歩くのは楽しかった。好きでもない男とキスするのはもっと面白かった。私は私を粗末にしているつもりなんかなかった。くだらない男のくだらない口先だけの愛なんかより、ドロドロした汚い性欲をぶつけられる方が何も考えずに楽しめた。

 

「どうして出会い系なんかやってるの?」と聞かれて、「さみしいから」と答えたのは先週の火曜日だった。物心ついたときから今までずっと寂しい。寂しくないということがどういうことなのかわからない。リストカットの傷は幸いにして浅くて、でも陽にかざすと白く光る。傷が消えることは一生ない。