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古着屋さんで買った、少しサイズが小さいけれどスタイルがよく見える可愛いワンピースと、キラキラと光を反射しながら揺れるイヤリングをつけて、私は特急に乗っている。

 

クリスマスイブにはジョンレノンのHappy Christmas を聴くのが恒例になっていて、毎年、冒頭でオノヨーコとジョンレノンが自分たちの子供に囁く場面でグッときてしまう。そしてあのイントロの素晴らしさ。

クリスマスイブに特急に乗っているなんて、昔のJRのCMみたいだ。改札まで大急ぎで走って、彼氏を見つけて、柱の陰に隠れて帽子をかぶって深呼吸する。

 

この一年は本当にいろんなことがあった。

四月には新しいバイトを始めた。しんどくて絶対に夏までにはやめてやると思ったのに今も続けている。時給上がったしね。

五月もバイトばっかりだった。実習がちょこちょこ、泊りがけの実習もあった。不運が続いて神よ、と思った。何もかも投げ出したかった。

六月は告白する、と決めて、振られると思っていたから、あと実習のストレスもあって、出会い系で2人の男と寝た。抱き合いながら壁に好きだった先輩の名前を指で描いたりした。

七月、台風のせいで夏祭りに行けなくて、せっかく買った浴衣がおじゃんになった。よく覚えてないけど多分七月末に泣いて喧嘩して別れた。

八月、また出会い系と会い始めた。分かれて最初に会った男はロクでもないやつで、2人目の男は結局、今もずっと連絡を取っている。友達と旅行に行ったり、バイトに行ったり、実習に行ったり、幼馴染とオムライスを食べたり、ひまわりの写真を撮りに行ったりした。忙しかったけれど、毎日楽しくてしょうがなかったと思う。

九月、出会い系の男と旅行に行った。温泉に入ったり馬鹿みたいに歩いて汗かいて笑ったり神社に行ったり、さみしがったり、楽しかった。31歳とも会った。カメラを止めるな!を見に行ってお好み焼きを食べてカラオケに行った。お父さんとお母さんと三人で映画を観に行った。何を観に行ったんだっけ?あっキムタクとニノのやつだ。検察側の罪人。ポップコーンを食べながら観た。誕生日も祝ってもらったりした。その日だけは世界で1番幸せだったかもしれない。

十月、学校が始まって、前好きだった先輩と飲みに行って、おでんをたべたりした。童貞に告白されて面倒だと思ったりした。

十一月、福岡からわざわざ出会い系の男がきて、山の上の展望台で夜景を見ながら告白された。車の中でキスをした。

十二月、結局付き合うことになり、美容室に行ったりバイトに行ったり授業を受けたりしているうちにクリスマスイブになった。

 

アルバイトもそれなりにうまくできるようになって、たくさん勉強することがあって、痩せて、太って、可愛くなって、服をたくさん買って、1人で電車に乗れるし、喫茶店にも入れる、ベーキングパウダーの場所だって店員さんに聞ける、以前なら恥ずかしくていつまでもクヨクヨしていたことだって、ある程度は受け流せるようになった。男の人と臆せず話せるようにもなった。この一年で得たものの中には、不必要なものや汚いもの、手放した方が良いものだってあったかもしれないけれど、でもそれでも、私は多くのものを得た。私はこのことを誇りに思う。

 

この前の英語の授業で教授がサンタ帽をかぶってギターでサンタクロースの歌を歌っていた。

 

メリークリスマス、と聞くと太宰治の小説を思い出す。題名は「メリイクリスマス」。

 

この一年を悲観せずに終わらせることができそうだし、少なくとも今は、少し幸せで、心がいつになく落ち着いている。昨日作ったマフィンを喜んでくれなかったら、と思うと惨めになるけど、そんなのもう今更どうにもならない。あと1時間、私は特急の中で眠ることにする。良いお年を。そしてメリークリスマス。