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ノルウェイの森のミドリ

 

今本が手元にないから正確な文は思い出せないのだけれど、たしかワタナベくんが小林書店で昼ご飯を食べた時、ミドリが「私が求めているのは完璧な愛なの」と言う。ワタナベくんが「それはどういうものなの?」と聞く。ミドリは語り始める。「私が例えばチョコレートケーキが食べたいっていうとするでしょ、そしたらあなたは何もかも投げ出して走ってケーキを買いに行くの。そして買って来たケーキを見て私は、ふん、こんなものもう食べたくなくなっちゃったわよ、って外に放り投げるの。あなたは言うの、ごめん、君がチョコレートケーキを食べたくなることくらい予測すべきだった。僕はロバのフンみたいに無神経だった。今は何が食べたい?いちごのショートケーキ?それともモンブラン?」そんなの愛とは無関係なものに思えるけどな、とワタナベくんは言うけれど、私もごく最近まではワタナベくんと同じように思っていたけれど、でも今はミドリの気持ちがよく分かる。

 

私もミドリも、思いっきり甘えたいのだ。自分を愛して、愛ゆえになんでも許してくれて、甘やかしてくれる人に。寄りかかって、甘えて、安心したいのだ。この人は私を愛していて、だから全部許してくれる。私はこの人のことをちっとも愛してなんかいないけれど。ケーキを買って来てくれたり、例えば今日みたいな雨の日に薄着をして来てしまった私に上着を貸してくれたり、そんな都合の良い、自分勝手で完璧な壊れることのない愛が欲しいのだ。

 

こんな人間が幸せになんかなれるのかな。